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February 10, 2018

白い通信文

卯月
「白雲にまぎれてしまふ花銀杏」 広瀬一朗
落葉樹の代名詞ともいえる銀杏(いちょう)というと、その葉が鮮やかに色づく秋のイメージしかないかもしれませんが、その花を結ぶ(「結花」といって、つぼみつけること)のは、実は、四月も半ばを過ぎる頃。雄株の花が次第に黄緑色にひらくため、ややもすると、新緑の葉に埋もれてしまいがちですが、「白雲」の中にたたずむその姿にこそ、幽(かそ)けき春の訪れを感じとれるというものです。

皐月
「水漬(みず)くべし汀(なぎさ)の藤の花なれば」 下村梅子
庭園や社寺などで見受けられる、いわゆる「藤棚」から、およそ一メートルにも及ぶ花穂(かすい)をいくつも垂れ下げる藤。そのひとつひとつも、紫や白色の、まるで貝殻のような、はたまた蝶の羽とも形容したくなるような美しい四弁花です。ちなみに、その花房が.風にゆれるさまを「藤波」というのですが、もし、贅沢にも、「水漬くべし汀」の「藤波」を観賞したくなったら、亀戸天神のそれがおすすめ。

水無月
「紫は水に映らず花菖蒲(はなしょうぶ)」 高浜年尾
同じ紫でも、淡い紫もあれば、少しくすんだ古代紫もある花菖蒲。それもそのはず。園芸種として、五千以上の品種が作られ、色だけでなく形も含めバリエーションに富んでいます。ちなみに、花菖蒲がその花を咲かせるのは、わずか三日間。そこには、梅雨のひとときだけしか見ることのできない、はかない美しさがあります。今は、「紫は水に映ら」ない空の色に少しだけ.思いをはせてみませんか?

文月
「百合白く雨の裏山暮れにけり」 泉鏡花
「裏山」とあるので、山々の起伏や、ときに谷間の渓谷に根を下ろす、「山百合」のことでしょう。発芽から開花までには少なくとも5年以上かかるといわれる希少品種です。その花の香りは日本自生の花の中では例外的ともいえるほど、甘く、艶(あで)やかなもの。「暮れ」なずむ夕刻に濡れそぼる白い百合は、その朧気(おぼろげ)な視界とは裏腹に、ますます、嗅覚にうったえかけてくるものがあります。

長月
「曼殊沙華散るや赤きに耐へかねて」 野見山朱鳥
秋の彼岸ごろに開花することから、一般的には、「彼岸花」として知られる「曼殊沙華」。その姿形は独特で、全体としては、細長い蕊(しべ)と、反り返った6枚の細い花弁が放射状にその繊細なシルエットを描きます。なお、花が咲くときは葉はまだなく、葉が出る頃には、すでに花が散っている様子から、文字通り、「葉見ず花見ず」という別名もあり、あたかも転生のごとき成長過程を繰り返します(多年草)。

神無月
「藤袴とも思ほゆる隔たりに」 飯島晴子
一本の茎から袴(はかま)をひろげたかのように、藤色をした小さな花がいくつも咲く藤袴。昼日中の日差しの中では、ときにやさしい白銀色(しろがねいろ)にも見えなくない反射光をともないます。ちなみに、もとは一つですが、下部の葉が三深裂し、それを乾燥させると、桜の葉を塩漬けにしたときのような、あの甘い香りが漂います。漢名、香水蘭(こうすいらん)。雅称、「白銀葭(しろがねよし)」。

霜月
「コスモスくらし雲の中ゆく月の暈(かさ)」 杉田久女
種が拡散しては、路傍や河原一面に咲きほこる秋桜(コスモス)。青空の下にそよぐ風がよく似あうものの風雨に弱いというはかない一面もあります。ちなみに、ここでいう「暈」とは月に薄い雲がかかり、その周囲に光の輪が現れる大気光学現象のことをいいます。別名、月暈(つきがさ)。曇り空の月明りのもとに微かに浮かび上がる秋桜の花と、それをよぎる雲の陰翳(いんえい)を愛でるのもまた、雅やか。

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posted by 草森冬弥 @ 5:55 AM

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